石川竜一 写真展 『OUTREMER/群青』 × 五味彬

 

石川竜一 写真展 『OUTREMER/群青』
Ryuichi Ishikawa Photo Exhibition
五味彬さんをインタヴュアーに迎えてここでしか聞けないお話をたくさんしてもらいました。

2017.11.11 Sat – 12.10 Sun
http://l-amusee.com/atsukobarouh/schedule/2017/1111_4456.php

2014年11月にアツコバルーでの個展を終えた石川は、翌年2015年2月、パリに向かった。パリの冬、毛皮の帽子をかぶり大きなカメラを首から下げて2ヶ月の間、北駅にあるスタジオを起点に木村伊兵衛賞の授賞式ギリギリまでパリを撮って歩いた。800枚ほどのショットを見せてくれたのだが、何かまだ本人も私たちも納得できないものがあった。行けるところまで行っていない。残念な感じがあった。
本来の約束は2ヶ月で何とか個展ができるだけのものを撮ってくる、だったが、石川のもう一度行きたい。という願いに我々もかけてみることにした。そして2016年再び12月。彼は今度はパリから出てマルセイユ、コルシカ、リヨンも回った。結果としてやっと満足いくものが撮れたと思う。

私の最初の目論見は沖縄という彼にとってのホームランドで、人々と気軽く話し合い友達になって撮らせてもらう、ということが通じない、いや、一言も通じない異国で彼がどのように言葉を介在させずに相手の心を開かせて懐に飛び込むことができるか。そこを挑戦して欲しかったのだ。昔ロベール・ドアノーは話の通じる知っている人でないといいポートレートが撮れない、と言って俳優緒形拳の仕事を断ったことがある(後で説得してオーケーしてくれたが)。私は言葉を介さない交流があるはずだと思っている。いわゆる人間関係の普遍性のことである。それを若いうちに習得して欲しかった。

予算は2倍かかったが石川は予想をはるかに超えるものをつかんできた。戦争に揉まれて来た民族の巨大な集積の海で彼はアップアップして、いつしか泳ぐことを覚えた。表題のウルトラメルは海の向こう、とウルトラマリンブルーの二つの意味がある。それぞれの色を持った人間達がフランスという国土でうごめき、それが海の青い群れに見えたのか。石川の目で見るフランスは全く新しい。

OUTREMER

パリの北駅に着いたのは深夜で、他の路線はもう止まっていた。広い駅の中はガランとしていて、歩いている人々に目的地があるとは思えなかった。駅の外に出ると冷たい空気で露出している肌はピリピリしてくる。道端で眠る人々は皆、建物の壁に張り付き、身を寄せ合っている。それでも、歩き過ぎていく分には、大した寒さではなかった。初めての土地では、足を前に進めるだけで、瞬きをするだけで、全てが無差別に、僕のあらゆる感覚を通して、強制的に飛び込んでくる。人々持つ野生が、衝動のようにうごめくいていた。街に渦巻くその狂気は、興奮と引き換えに気力を吸い取る。言葉も話せなければ、馴染みの場所も古い友人もなく、僕は街灯に飛び回る、だただ一匹の羽虫だった。ピクリとも動きそうにない石壁や石像。生きていたときよりもふわふわに逆立った毛皮を着て歩くマネキンのような女。葉の落ちた樹木を見上げ、叫び続ける男。地に平伏し、ねだり続ける人々。ギラギラと光りながらも所々が消えているネオン。テロの影響で、ライフルを持った警察や軍人が都会とその周辺の隅々を警備していた。エマニュエル・トッドは、シャルリ・エブドがきっかけとなった一連のテロについて、自由平等主義が引き起こした、伝統的宗教価値観の分裂と崩壊、国内での格差の拡大からくる、他宗教への恐怖が背景にあるとした。

混血の地は、あらゆる産業、文化、思想の中心に立ち、言語への圧倒的な信頼がその強靭な社会を生み出した。それは淘汰されていく現代のシステムそのもので、写真もその例外ではない。世界は常にズレていると同時に、ズレの連鎖でしかない。しかし言語を中心としたその存在の間に広がる海は果てしなく、聳え立つ山は巨大だ。

それは日本語以外話せない僕にとっては、この場所にリンゴそのものは存在しても、僕の知るリンゴは存在しないということであり、全てが用意されているはずの世界で、僕がどんなにもがいてもなにひとつ掴みとることはできないということだ。ここには海もなく空もなく、目の前の窓を開けてもただ闇が広がっているだけだ。これも窓ではない。「mel」であり「ciel」であり「fenétre」だ。これは思考の闇であり、漆黒の闇だ。そのことに気づき、意識の窓が開いたとたんにその闇は「sombre」ではなく僕の認識できる「闇」として一瞬で僕を包みこむ。ただ触れることも臭うことも聞くことも味わうことも見ることも出来る。鏡の前に突っ立っているおぼろげな影はだれだ。ほとんど透明に近いかたちで存在し、かろうじで残される凝縮された青黒い影。

操作することのできない時間や流れ、記憶や無意識に訴えかける何か、身体が反応し言葉の網目からこぼれ落ちてしまう何かが、カメラを通して世界とショートする。

社会的にも歴史的にも差別され続けているロマ民族の母親は「どうせ食うもんが欲しいんだろ」と乱暴ながらも、訪ねる度に食べきれないほどの料理を皿に盛り付けてくれた、その母親から溢れ出る強い命の意志は、僕に沖縄のおばぁ達のことを思い出させた。
沖縄には異国の人々をウランダーと呼んだ時代があった。琉球王朝時代に貿易相手であったオランダから始まり、異国の人々をまとめてそのように呼ぶようになったが、その発音がOUTLANDとにているというのは面白い。沖縄を訪れる、島の外から来た得体の知れない人々は、繁栄の象徴であったと同時に、後の侵略の脅威となった。いっぽうでは、フランスのOUTREMERは、群れるように濃く青いの海の向こう側にある植民地の島々を表す。誰もが海や陸を漂流し、群れているだけの孤島に違いない。

<出演者プロフィール>

五味彬
写真科 ShINC.MAGAZINE/発行人兼 編集人
shincmagazine.tumblr.com
石川竜一
1984年 沖縄県生まれ
2006年 沖縄国際大学科社会文化学科卒業
沖縄県在住

受賞
2015年 第40回木村伊兵衛写真賞受賞
日本写真協会新人賞受賞
第49回沖縄タイムス芸術選賞奨励賞受賞

主な個展
2017年 
「草に沖に」アンダースロー、京都
2016年 
「okinawan portraits 2012-2016」Art Space AM、東京
「okinawan portraits 2012-2016」 Epson Imaging Gallery epSITE、東京
「okinawan portraits 2012-2016”」The Third Gallery Aya、大阪
「Camp」tomari、沖縄
「okinawan portraits 2012-2016」Art Gallery Artium、福岡
「Camp & Okinawa」Have a nice GALLERY、台北、台湾
「adrenamix」Pulp Gallery、大阪
「Camp」PINEBROOKLYN、大阪
「Camp」Wag Gallery、東京
「考えたときには、もう目の前にはない 石川竜一展」横浜市民ギャラリーあざみ野、神奈川
2015年 
「+zkop」沖縄コンテンポラリーアートセンター、沖縄
「adrenamix」新宿フォト&バーnagune、東京
「A Grand Polyphony」Galerie Nord、パリ、フランス
「絶景のポリフォニー」大阪ニコンサロン、大阪
「okinawan portraits」The Third Gallery Aya、大阪
2014年
「絶景のポリフォニー」、銀座ニコンサロン、東京
「okinawan portraits 2010-2012」Place M、東京
「zkop」アツコバルーarts drinks talk 、東京
「RYUICHI ISHIKAWA」gallery ラファイエット、沖縄
2010年
「瞑」(写真、コンテンポラリーダンス)ギャラリーoMac、沖縄
「脳みそポートレイト」沖縄県立博物館・美術館1F県民ギャラリー1,2、沖縄

主なグループ展
2017年
「日産アートアワード2017:ファイナリスト5名による新作展」BankART Studio NYK、神奈川
「Looking at Borders」Casa Asia、キューバ
「Looking at Borders」ロシア国立東洋美術館、ロシア
2016年 
「Body/Play/Politics」横浜美術館、神奈川
「OKINAWA : UNE EXCEPTION JAPONAISE 」Le Plac’Art Photo、パリ、フランス
「2016 Daegu Photo Biennale」Daegu Culture & Arts Center, Bongsan Cultural Center、大邱、大韓民国
「イチハナリアートプロジェクト」沖縄
「東北 沖縄」伊藤忠青山アートスクエア、東京
「六本木クロッシング2016展 僕の身体、あなたの声」森美術館、東京
「ドバイ・フォト」ドバイ デザイン ディストリクト、ドバイ、アラブ首長国連邦
2015年 
「木村伊兵衛写真賞40周年記念展」川崎市民ミュージアム、神奈川
「叢×10」NADiff A/P/A/R/T、東京
「日本写真協会賞受賞作品展」富士フイルムフォトサロン スペース1・2、東京
「第40回木村伊兵衛写真賞受賞作品賞展」新宿コニカミノルタプラザ、東京
「portraits」The Third Gallery Aya、大阪
2014年
「show case #3」eN arts、京都
「森山大道ポートフォリオレビュー展」沖縄県立博物館・美術館1F県民ギャラリー、沖縄
2013年
「Fragments 3」(写真、コンテンポラリーダンス)沖縄県立博物館・美術館1F県民ギャラリー、沖縄
2012年
「沖縄本土復帰40周年写真展 Okinawa 0 Point」

出版物
2016年 
『okinawan portraits 2012-2016』赤々舎
『Camp』Slant
2015年 
『adrenamix』赤々舎
2014年 
『絶景のポリフォニー』赤々舎
『okinawan portraits 2010~2012』赤々舎